性の多様性の授業・研修実施の実態調査2019(教育委員会)
2010年に文科省が出した通達「児童生徒が抱える問題に対しての教育相談の徹底について」では、性同一性障害の生徒への対応の必要性が周知され、2015年の「性同一性障害に係る児童生徒に対するきめ細かな対応の実施等について」や2016年の「性同一性障害や性的指向・性自認に係る、児童生徒に対するきめ細かな対応等の実施について(教職員向け)」においても、その対応が教育現場の責務であることが示されています。
こうした文科省の通達を現場に周知・啓発し、実態を把握する機関が、各地域の教育委員会となります。
新設Cチーム企画では、2019年8月~9月にかけて、大阪府43市町村の教育委員会と、これまでDVDの注文があった教育委員会に問い合わせて、メールでのアンケート調査を行いました。
大阪府43市町村の内、大阪府、和泉市、交野市、門真市、守口市、茨木市の6の教育委員会、また他県では京都府、滋賀県彦根市、石川県能登町の教育委員会より現状についての回答をいただきました。なお、京都市教育委員会からは、他の市町村と比べるであればデータ公開はできないとの回答がありました。
下記に回答をまとめたものを報告させていただきます。調査にご協力いただきました皆様に深く感謝申し上げます。
【質問項目】
(1)性の多様性の授業が実施されている学校数
(2)性の多様性についての教員研修が実施されている学校数
(3)カムアウトしているLGBTの生徒を把握している学校数
(4)当事者の生徒にどのような対応がされているか
(5)不必要な性別区分を減らすためにどのような学校・教室つくりがされているか
奈良県はすでにデータを公開しています。
LGBTQについては8ページ、12ページを参照ください。
九州のデータがわかる記事(2019/08)
各教育委員会の回答
大阪府教育委員会
(校長へのヒアリングによる調査結果。アンケートなどの調査ではない。)
(1)(3)(4)(5)については不明
(2)性の多様性についての教員研修を実施している学校
・小学校、369校(61%)
・中学校、207校(72%)
【その他のデータ】
●大阪府下の高校(153校)で性の多様についての研修・授業をした回数(H30)
・教員研修36回(全467回中)
・生徒の授業119回(1532回中)
※ひとつの学校で複数回の可能性あり・だいたい年に3回の人権学習の機会がある
●大阪府下の市町村の教育委員会が実施した教員と管理職向けの研修
・H27:25回、H28:53回、H29:64回、H30:66回
●大阪府教育委員会でやってきたこと
・H25ごろから教育センターで啓発パンフレットを作成配布
・H26ごろから人権研修の中にテーマとして取り入れる
・H28以降は府の教員が必ず受ける初任者研修に、性の多様性についての項目を入れている
・学校からの要請があれば、指導主事が研修に行く
茨木市教育委員会
(小学校32校、中学校14校中)
(1)性の多様性の授業が実施されている学校数
小学校15校(47%) 中学校9校(64%)
(2)性の多様性についての教員研修が実施されている学校数
小学校16校(50%) 中学校8校(57%)
(3)カムアウトしているLGBTの生徒を把握している学校数
小学校4校(27%) 中学校3校(21%)
(4)当事者の生徒にどのような対応がされているか
相談体制を整え、対応をしている。
制服については、選択ができるルールを示していたり、申し出があれば検討する対応をしている。
更衣室については、保健室等の利用をしている。
トイレの使用については、職員トイレや多目的トイレ等を利用等している。
水泳時の服装については、上半身が隠れる水着の使用等している。
修学旅行時については、1人部屋の使用や入浴時間をずらす等の対応をしている。
(5)不必要な性別区分を減らすためにどのような学校・教室つくりがされているか
・男女混合名簿。
和泉市教育委員会
性の多様性についての授業や研修に数年前から力を入れて取り組んでいる
Cチーム企画のDVDを活用した授業、当事者を招いた教員研修の実施
個別の団体からのアンケートには回答できない
交野市教育委員会
3年前から当事者の方を招き、教職員研修を毎年実施
小学校の低学年では性別による決めつけをしないこと。中学年では男女の人権に関わること。また高学年ではいろいろな性の在り方について学ぶ機会を設け取組んでいる。
中学校においても授業ではもちろん、講演会を実施されたりするなど、小中学校が連携し系統的に男女平等教育のひとつとして位置づけ積極的に実践をしている。
当事者の児童・生徒への対応も、制服のスカート・ズボン及びキャップ・ハットの選択が可能であることをはじめ、府や文科省の通知に基づき児童・生徒への配慮を考え適切に取り組んでいる。
個別の団体からのアンケートには回答できない
門真市教育委員会
具体的な学校数については回答を差し控える。
(1)性の多様性の授業が実施されている学校数
保健体育・特活・道徳・総合などの授業において、LGBTを含めた性の多様性についての学習を実施していると把握している。
具体的な学校数・詳細な指導内容・使用教材については把握していない。
(2)性の多様性についての教員研修が実施されている学校数
市教育委員会の教員研修でもLGBT当事者の方を招聘しての研修を実施している。
研修には、全小中学校から教員が参加している。
研修に参加した教員が、自校の教職員に内容を伝達する形の研修は、全小中学校で行われているものと把握している。
(3)カムアウトしているLGBTの生徒を把握している学校数
把握している学校はあるとの報告を受けているが、具体的な校数については回答を差し控える。
(4)当事者の生徒にどのような対応がされているか
当事者の児童生徒が在籍する場合には、各学校において更衣・トイレ・水泳指導・宿泊学習・制服等、学校生活の様々な場面における対応や、周囲の児童生徒・保護者への周知・啓発について、当事者の児童生徒や保護者の意向を丁寧に確認しながら対応しているものと把握している。
(5)不必要な性別区分を減らすためにどのような学校・教室つくりがされているか
名簿・集会での並び方・運動会の参加の仕方・委員会やクラブ活動・名前の呼び方・更衣・服装等に、不必要な性別区分がないかをチェックするアンケートを実施の上、集計結果を研修等の場で周知して、不必要な性別区分を無くしていくよう、指導・助言している。
多目的トイレの設置や十分な更衣室の確保等、施設・設備面においては、全小中学校において十分な環境が整ったとはいえない状況にある。限られた予算の中ではあるが、順次改善を図っていく。
能登町教育委員会
(1)性の多様性の授業が実施されている学校数
・9校中2校
(2)性の多様性についての教員研修を実施している学校
・0校
(3)カムアウトしているLGBTの生徒を把握している学校数
・0校
(4)当事者の生活にどのような対応がされているか。」
・特記なし
(5)不必要な性別区分を減らすためにどのようなことをしているか。
・混合名簿、集会等の並び方を工夫、全員~さん付けで呼ぶ)
守口市教育委員会
現在、本市においては、関係諸団体と連携しつつ、LGBTをはじめとした人権教育に係る教職員研修等を実施している。
加えて、各校においても、教育計画に基づいた教職員研修等が実施されているところであり、LGBTの内容についても、体育科や保健体育科をはじめ、総合的な学習の時間等において計画的に授業に取組む学校や、教職員研修においても当事者を招聘し実施するなどの学校もある。
今後も、当事者の児童生徒が一層安心して学校生活を送ることができるよう、教職員の資質向上も含め、LGBTをはじめとしたさまざまな人権課題に視点をおいた人権教育の推進に努めていきたい。
京都府教育委員会
(1)性の多様性の授業が実施されている学校数
・具体的な数値は把握していない。
(2)性の多様性についての教員研修を実施している学校
・調査等による把握はしていないが、学校に対しては、教職員が基本的な知識を身に付け、適切に指導できるよう、校内研修の実施を指導している。また、京都府総合教育センターでは平成28年度から性の多様性に係る研修を継続して実施している。
(3)カムアウトしているLGBTの生徒を把握している学校数
・調査等による把握はしていない。
(4)当事者の生活にどのような対応がされているか。
・各学校においては、個人面談や家庭訪問を通じて保護者や本人の思いをきめ細やかに聞き取り、児童生徒の実情を十分に把握した上で、保護者や児童生徒の思いや意向を踏まえながら、それぞれの個別の状況に応じた対応に努めている。
・ただし、児童生徒によっては、特定の教員のみにカムアウトし、保護者にカムアウトしていない場合もあり、慎重な対応に努めている。
【対応事例】
・スラックスの制服着用を認める
・保健室での更衣を認める
・多目的トイレの使用を認める
・呼称を男女とも○○さんとする
・修学旅行、研修旅行等での配慮
・周囲の生徒の理解を深化させるための学習 等
(5)不必要な性別区分を減らすためにどのような学校・教室つくりがされているか
・性別にとらわれることなく個性や能力が尊重されることが大切であることを理解し、男女が互いに協力し尊重する態度の育成に努めている。
・令和2年度の京都府公立高等学校入学者選抜より入学願書の性別記入欄をなくした。
・多様な性についての理解を深め、性的指向や性自認に関する偏見や差別をなくそうとする態度や、一人一人が自他の個性を尊重し、互いによさを認め合える関係を築こうとする態度の育成に努めている。
彦根市教育委員会
(小学校17校、中学校7校中)
教職員研修を開催した際には、Cチーム企画のDVDを用いて研修を進めた。
各校では滋賀県教育委員会人権教育課が昨年度作成した「性の多様性を考える~性的マイノリティの子どもが安心して過ごせる学校・園づくり~」リーフレットを用いて校内研修を設け、性的マイノリティへの正しい理解と、何よりも子どもたちが安心して過ごすことができる学級、学校づくりに努めるよう指導している。
(1)どれぐらいの学校で性の多様性の授業が実施されているか
小学校実施校( 1校/17校) 中学校実施校( 5校/7校)
(2)どれぐらいの学校で性の多様性についての教員研修が実施されているか
小学校実施校( 7校/17校) 中学校実施校( 5校/7校)
(3)どれぐらいの学校で、カムアウトしているLGBTの生徒がいるか
小学校0名、中学校0名
(4)当事者の生徒にどのような対応がされているか
小学校実施校( 0校/17校) 中学校実施校( 0校/7校)
カムアウトをしている児童・生徒がいないため対応はしていない。
(5)男女共生の視点で、どのような環境・教室つくりがされているか
誰でも使用可能な多目的トイレが設置されている。
敬称を「~さん」で統一している。
名簿等、必要でない場合は男女で分けない。
制服(夏服)をポロシャツに変更した。
(その他の質問)その他、社会問題や人権について授業をしていますか。
・彦根市では、各校で毎月「人権の日」を設定し、朝読書等の10分間を利用して、様々な人権について考える機会を設けている。その中で、同和問題や障害者、女性、子ども、外国人などの個別の人権課題にも触れ、子どもたちの人権感覚を高める取組をしている。また、12月の人権週間には各校の実態に合わせて計画的に人権学習を実施しており、小学校では人権集会を開くなど児童会を中心とした取組も行っている。